大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和29年(う)823号 判決

所論は原判示第一事実における事故米は政府が昭和二十六年度中に輸入したビルマ米の中から変質米が生じ、それを配給することができなくなつたので綜合配給不適格食糧として処理することにし、綜合配給不適格品処理要領によつて払下げ食糧管理法の管理の対象から除外したもの即ちこれは「物に対する除外事由」に該当する旨主張し又本件事故米は法律上の米(管理米)ではない旨主張する。よつて案ずるに食糧管理法施行規則第三十九条によれば苟くも米穀である以上法定の除外事由ある場合を除き何人もこれを政府以外の者に譲り渡すことができないのは当然である。しかし法律上米穀とみられないものまでもこれを規整し得ないことは勿論であるから先ず問題となつている所論の変質米(黄変菌が寄生したいわゆる黄変米)が法律上米穀といえるかどうかを検討してみるに記録に徴すると本件輸入したビルマ米中の一部に黄変菌による変質を来し、綜合配給に不適当と認められるものを混入するに至つたことは相違ないのであるがその変質米と雖も形状実質に米穀と称し得ない程度にまで変化を来したとは未だ認められないのである。かような黄変米はそのまま家庭の飯米用として配給することは不適当であるにせよ物理的、化学的に米穀たるの本質を具えておるのであるからなおこれを法律上の米穀と解し食糧管理法の下に規整するの必要があると解すべきである。蓋しかかる変質米の如きは米穀たるの形状、実質を有しておる関係上食糧として絶対に流通に置かれることなきを保し難いのであつて、その有毒であるかどうかに顧慮を払うことなく、国民間に或は食糧として譲り渡し譲り受け等のなされる虞あることは看易き道理であり、これを食糧にあらずとなし食糧管理法の枠外に置いて自由な取引に任すときには延いて国民食糧の確保及び国民経済の安定にも影響を及ぼすことがあるものというべく、食糧管理法第一条の規定する趣旨から考えても同法第二条にいう米穀に該当するとみるのを相当とするからである。従つて所論変質米(黄変米)もなお法律上の米穀といわなければならない。(なお論旨第一点の第一の八項中には政府所有の黄変米は食糧管理法の対象となる旨論旨自らも述べている。)次に論旨にいう右黄変米の混入するビルマ米を政府が綜合配給不適格品処理要領によつて払下げたことにより食糧管理法の対象から除外せられたものであるとの主張につき考究するに記録によれば本件黄変米を混入するビルマ米は最初所論の綜合配給不適格品処理要領(昭和二十五年四月十三日附食糧庁長官発二五食糧第三〇二三号「政府及食糧配給公団所有綜合配給不適食糧の処理に関する件」通達、昭和二十六年九月一日附同長官発二六食糧第五六三号「政府所有綜合配給不適食糧の処理について」の通達)に基き政府から東洋醸造株式会社に対し飲料アルコール製造用として指名競争入札の方法により払下げられたものであることが認められ、その売渡方式価格決定の方式が正常の食糧を政府が売渡す場合と対照して差異あること、並びに政府の売渡した右事故米を政府に還元する手段につき何等の定めがなかつたことは所論のとおりであるが、かかる事実あるの故を以て米穀とみなし得ること叙上説示するとおりの黄変米を食糧管理法その他の関係法規がその規律の対象外に置いておるものとは以上の各法規の規定をみるも到底理解できないのみならず政府においても黄変米を混入する本件事故米を食糧管理法の対象から除外する趣旨の下に処分しこれを所論の如く「物に対する法定の除外事由」と認めたのであるとする証左なりと解することはできないのである。即ち原審証人岡村昇三、同武田誠三、同大塚正一の各証人尋問調書、当審証人大塚正一、同梶原茂嘉、同植木建雄の各尋問の結果によれば政府は本件事故米を綜合配給不適格品処理要領に基き払下処分をしたけれどもこれを食糧管理法による規整の枠外にあるものとして取扱う趣旨ではなかつたこと又前示処理要領において払下を受けた当該会社が指定の用途以外に払下米を処分する場合には改めて用途変更の承認を要することに制限せられておることが明認し得るのであつて、これ等の点からみても政府においては払下にかかる本件事故米を法の管理の枠外に置くことなく爾後の処置を放任したものでないことが窺知し得られるのである。更に飜つてこれを法律の規定から観察するに食糧管理法第四条第一項は「政府ハ其ノ買入レタル米穀ヲ第八条ノ二第二項ノ販売業者又ハ政府ノ指定スル者ニ売渡スモノトス」と定め、食糧管理法施行規則第三十九条は「食糧管理法又は同法に基く命令により定める場合及び農林大臣の指定する場合を除いて何人も米穀を政府以外の者に譲り渡してはならない」と定めておるのであつて、右食糧管理法第四条第一項の前段は綜合配給を対象とする販売業者に対する売渡し、後段はそれ以外の政府の指定する者に対する売渡しを予定しておるのであるがその売渡しにかかる米穀については前示規則第三十九条所定の場合を除き何人もこれを政府以外の者に譲り渡してはならないことが法律上明らかにされ、本件の如き黄変米が法律上米穀であること叙上の如くである以上これはとりもなおさず法規による規整の対象となつておるものというべきは多言を要しない。而して本件の黄変米を混入する米穀が東洋醸造株式会社に払下げられたのは綜合配給不適格食糧として前示食糧管理法第四条第一項後段に基き処分されたものと解すべくその払下方式等が一般と異なることにより右払下米穀の場合に叙上の法律解釈を否定すべきものとみられる何等の規定もなく従つてその米穀を何人と雖も自由奔放に政府以外の者に譲り渡し得るものであるとは到底みなし得ないのである。然るに被告人等がこの米穀を入手し原判示の如く政府以外の者に販売したのであつて、それにつき前示規則第三十九条所定の除外事由のなかつたことは証拠上明白であるから被告人等は食糧管理法並びにその関係法規により管理規整せられておる米穀を何等法定の除外事由なきに拘らず法規に違反し譲り渡したものとなさざるを得ないのである。

以上のとおりであり縷々の所論に鑑み記録を精査してみても以上の判定を左右し難く原判決の判示第一事実についての認定、法律の適用は相当であつて、原判決はこれにより弁護人の主張を排斥したことが自ら明らかであるから判断遺脱の廉もない。要するに原判決には所論のような違法は一も存在せず本論旨における弁護人の論議は独自の見解に帰する。論旨は理由がない。

(裁判長判事 吉田正雄 判事 山崎寅之助 判事 大西和夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!